だからドリルは外しておけと

ふと目に留まったので読んでみた読売夕刊の書評「本田透のキャラ読み!」第一回。


この「容疑者Xの献身」の書評では主人公石神を「中年で貧乏でキモメンで喪男という恋愛逆四冠王*1」と捉えてその愛を原因とする行動について語っていたのだが、「人間相手だとなまじ現実に存在するから愛されたいという煩悩を生み出す」「救われたければアキバへ行って二次元キャラに萌えろ」という論法に持っていくのはどうにも釈然としなかった。


「優姉といっしょ」をやっていた時にも思ったことなのだが、たとえば「優姉」で主人公の友人ポジションにいる黒崎龍一が「2次キャラをこよなく愛するイケメン男」という設定になっているのは、小説で「事実は小説よりも奇なり」*2という言葉を使うのと同じくらい歪なことではないかと吾輩は思う。
吾輩はあまりミステリー読まないのでこの「容疑者Xの献身」という本がどうかは知らないが、もしこの隣に引っ越してきた靖子さんに挿絵があったとしたらそれは二次元キャラになるのか?ならないのか?イラストレーターがぱんつはいてない人でも?むしろ挿絵の有無で二次元キャラかどうかの線引きが挿絵の有無になるのか?アニメ化・漫画化される前のラノベキャラは二次元キャラか否か?という疑問に当然行き着いてしまうのだ。
会長誕生日にも書いたことだが、やはりこれは前提としての「二次元キャラ」という呼ばれ方・捉えられ方自体が極端で、便利ではあるけど文字と本質がずれてしまっていることにも起因する齟齬だと思う。


「優姉」や「アキハバラ学園」といったゲーム内で「三次元なんて〜」云々と言われても、ネタとして面白いってのはあるのやもしれないが信憑性は皆無である。そしてその龍一が優姉に憧れてしまったり、三次元と決別したはずのネコミミ男がなみ先生に萌えてしまったりするのは当然なのだ。前提が明らかに破綻しているのだから。
何処まで計算して萌え設計をしているかはさておき、萌えキャラとして作られているものに萌えるのは当然だと思う。「海道〜うみのみち〜」に登場する吉岡奈美は、としあき*3がメロメロになるくらいだからこそ萌えコンテンツ・ヒロインとして意味があるのだし、そういう萌えコンテンツだからこそ利明がわざわざ義妹呼ばわりする*4のだろう。
言ってみればその龍一や利明と「SHUFFLE!」のスーパー軟派男・緑葉樹の趣味はさして違わない気がする。萌えコンテンツが自己と同列に転がってる世界でその方面のオタク趣味はそもそも存在自体がその世界に必要ない。吾輩の抱き枕生活のような「そういうものに耽溺する世界」の描写として作られるのは有りだと思うのだけど、萌えキャラを絡ませた上でやるとただの不合理なキャラになってしまう。この矛盾の原因がまさに三次元云々という言葉の独り歩きである。

真実のヲタは美女がからまれていても、手元のPSPから目を離しません。そもそも真実のヲタは、3Dに欲情しません。

という映画版電車男DVDにおけるアソビットシティのPOPは記憶に新しいところだが、可能な範囲でなら本当に困ってる人を助けるくらいはするだろというツッコミはさておき、真実のオタの定義が何で、本当にそれをこそ真実のオタと呼ぶべきものなのかという疑問は当然に生じる。
「三次元だから」というのは理由としては不完全で、もちろんこの言葉は文字の通りの意味だけでなく色々と省略が働いている部分もあると思うが、なんにしてもそれはあくまで結果と傾向に過ぎない。そのカテゴリに属するから萌える、属しないから萌えないというのではなく、個別の特質として萌えるか萌えないかこそが問題となるはずである。姉萌えたる吾輩は、姉キャラだから萌えるのではなく、萌えるのが大抵姉キャラだから姉萌えなのだ。


姉といえば例によって先月開催されていた姉祭りの状況もそういう点から見ると面白い。今年に限ったことではないが、姉祭りチャットでは毎回意外なほどに実際の姉とか従姉絡みの話が中心になっている。まあ姉ゲーをあまり知らない人、姉ゲー以外はあまり知らない人、などがある中で共通項を探そうとすると領域を限定しない実際の姉関係に偏ってしまうという面もあると思うのだが、それにしても多い。このイベントの立ち位置は姉ゲー中心のオタクイベントであるにもかかわらず。
しまいには結婚の話まで始まって半数以上の人間から「結婚願望がある」旨の発言まで出てくる。斯く言う吾輩なんかは黙っていた*5ので暗数を考えるとまた異なるのやもしれないが、少なくとも主に発言している人からは条件付含めてそういう言葉が多く出ていた。
ただ吾輩は元々の「結婚願望」ということそのものからして捉え辛かったりもする。「恋人が欲しい」という言葉にしてもそうだがその目的設定が不可解なのだ。結婚にしても恋人にしても相手がいないと出来ないわけで、まさかしてくれるなら誰でもいいってわけではないだろうし、その相手という要素をかっ飛ばして結婚だの恋人だのというところを語るのは本末転倒、手段と目的の順序が逆なのではないかと考えてしまう。それでは子供を持ちたいとか近くに人が欲しいとか家庭持ちという箔・ステイタスが欲しいとかそんな目的のためのマシンとしての相手を求めるのかという話になる。
しかしそういう面を完全否定することは出来ないにしてもそれだけだと言う気はなく、やはり結婚と家庭というものへの憧れ、幻想(否定的なだけの意味ではない)のような期待があって、きっと前提として「結婚しようと思えるような相手に巡り会いたい」という意味がその言葉には含まれているはずだ。だから吾輩は軟派大いに結構だと思う。巡り会いたいがため求め探すというのは素直で正しい。
まあ吾輩の場合はおぞましいものを見てきたので先行する憧れや幻想が薄く、さらにはかつて私設ファンクラブ*6が結成されたという今時コテコテの漫画かゲームでしか聞かないような逸話を持つ異常なほどに才色兼備な人間を保護者として生きてきたためまさにアイシャ・コーダンテの「初めて会ったものがこの世で最高のものだった」に近い状態へ陥ってしまったことも影響を与えていそうではある。


あと実姉話なんかはシチュエーションに憧れと期待はあるのだけど、最終的に個別の問題でありキャラ無くして姉という概念だけで萌えられるほど器用でもないのでやはりどうにも馴染めなかったりする。元より萌えを共通項で語ろうとすること自体に無理があり、個別の話をするのでもなければ姉萌えを叫びつつ交流してるくらいが限界で、いやむしろ毎度実姉話をすることで共有可能な個別ネタを自前で作っているという見方もできるのか。


とまあいつものように物凄い勢いで脱線しているが、問題はライトオタが多いということを差し引いてもそんな方向の話が繰り広げられてしまうということである。それは三次元がどうとかいう区分ではなく、萌えるか・好きか、という個別の問題の集積に過ぎないからではなかろうか。
欲情云々はともかく、吾輩はたとえば柴門たまきよりも桃井かおりの方が好きだし笹森花梨より朝丘雪路の方が好きであるが、グラビアアイドルとかには興味すら湧かないし好きなものを上から挙げていけば(それを実際にやるのは技術的に難しいけど)圧倒的にゲーム絡みが多くなるはずだ。


吾輩はこの「容疑者Xの献身」も「電波男」も読んでいない、それゆえにこの書評を読む限りであることをことわったうえで言うが、吾輩は「石神の不幸は、二次元キャラでなく生身の人間に萌えてしまったこと」「救われたいならアキバへ行け!」という言葉が受け入れ難い。この石神という男の救いを求める描写がどれだけあったかは分からないが、そもそも関係の形質が異なるし、愛に不幸が伴ってしまったに過ぎない。それは多分客観的に不幸であり、本人の主観でも不幸を感じている点はあろうが、その愛が独自の価値あるものである限り、愛さなければ良かったなんてことは軽々と言えるものではない。
愛ゆえに人は悲しまねばならぬ。吾輩は由佳里先輩萌えだからこそ「ゆんちゅ」の企画と記事の内容に愕然とし憤りと悲しみに打たれた。他の一般的な萌えゲーのキャラならまずこんな使い方はされなかったはずだ。しかしそれで他のキャラを愛していた方が幸せだったなんてことはありえない。
萌えは代替ではなく、結婚とさえ両立*7し、独立して成立する価値を持つものではないか。そこで家庭とか結婚とか生身の恋愛を否定する必要も無くて、ただそれだけに縛られない、それを強要されない世界があればいい。萌えはただそれだけで尊い。癒しや救いなんてのは副次のものだ。


「萌え」とはつまるところ「愛」だと思う。
ただ言葉として用途が限定的で、それゆえに特定の領域を指すだけ。
愛を定義できないために萌えの定義も不可能であり、それを使い分ける線引きが人によって異なるから萌えを語ると紛糾する。


…………て、結局何の話だったかしら。(をぃ)


まあこの書評は第一回ということで一般の読者を想定しつつ原稿用紙一枚超程度の幅で自己主張をするためには限界もあったのだろうけれど、「キャラ」読みという割にその主人公の状態へほとんど切り込まずに定番の「三次元より二次元が(ry」という主張の比重が高いためチラシの裏というか書評記事としてはなんだかなぁと思った。


*1:この“喪男もてない男”ならば、それは中年+貧乏+キモメンという逆境を統合した「結果」であってそれらと並立させるものではないという細かいツッコミは入れられる。

*2:史実を引用するときとか、特別その言葉を有効に使う理由があるとかならまた別だが。

*3:某画像掲示板のデフォルトネームとは無関係……とも思えないが、奈美の兄である生粋のマルチオタク吉岡利明。「夏のひとしずく ネットワーク接続版」のおまけとして、このキャラが主人公になっている「としあき」というゲームがDLできる。どうでもいいがその「夏のひとしずく」の原画は優姉と同じみたらし候成

*4:奈美は利明の実妹である。

*5:吾輩はあすこに限らず何処のチャットでも入るだけ入って滅多に発言しない。当たり障りや流れを気にして考えながら打つので物凄く遅いうえ送信に躊躇しまくるためであって参加する気が無いわけではない。

*6:芸能人とかいうことではなく「SHUFFLE!」のKKK(きっときっと楓ちゃん)や「とらハ」の千堂瞳様ファンクラブといった類。

*7:まあ現に結婚してるオタクも沢山いる。