右とか、左とか。

といっても思想信条九条投石プロ市民どうこうではなく、書き順の話。「右」は「ノ」部分から書きはじめ、「左」は「一」部分から書き始めるというあれ。
実のところ吾輩は小学校で漢字教育の初っ端にこの右と左の書き順を習った時分から筆順というものには懐疑的――というか絶望に近い感情を持っていた。
それというのも小学校の教科書に載っていた右と左の書き始めが、それよりずっと前から吾輩の読んでいた古い「かきかた」の本とはまったく逆だったからである。吾輩は「右」は「一」から書き始め「左」は「ノ」から書き始めるものだと思っていたのに学校の教科書はそれとはまったく逆をいい、家に帰って改めて確認しても古い本の記述は吾輩の記憶の通りだった。さらにうちの保護者に訊いたところ、この古い本と同じことを毛筆の毛の撥ねまで勘案した書き順として昔お寺の住職さんから教わったのだという。
吾輩としてはいきなりこんな二律背反を突き付けられて学校で習う筆順を妄信せよというのも無理な話で、「必」の字なんかでも試験対策として上からの筆順を憶えはするものの、自分で書くときにはやはりずっと左からだった。


そしてそのまま今に至る積年の疑問についてふと思い立って調べてみたところ、今の学校教育における漢字の書き順は1958年文部省刊行の「筆順指導の手びき」が基礎となっておりこれが一人歩きして「正しい書き順」と捉えられてしまっているがこの本自体にも「この本で紹介されていない筆順を誤りとするものではない」旨の記述があって強制力を持つものではないらしい、ということが複数のサイトに書いてあった。
吾輩はその「筆順指導の手びき」という本の実物を読んだことがあるわけではないのでこの話の確証は得ていないが、少なくとも筆順を一つに決定する根拠となる裁定や理論が見当たらなかったことと併せて筆順観念への疑義を解消する取っ掛かりとして非常に興味深い情報であり、結構晴れがましい気分である。